2020年5月24日日曜日

【報告】東京都清瀬市からの2つの報告&安定ヨウ素剤の服用基準見直しの検討過程に関する重要な発見

いま、日本各地で、コロナ対策の一環として三密回避「危険なもの(コロナウイルス)に近づかない」が叫ばれています。これは危険の未然防止という予防原則を具体化したものです。
もしコロナウイルスに勝つ治療方法があれば、ここまで三密回避をやる必要はなかったでしょう。
しかし、その治療方法がない以上、原点に戻り、予防原則の大切さ叫ぶしかなかったのです。
そうだとすれば、放射能災害でも同じです。
原発事故発生直後に、被ばくによる甲状腺がん発症の危険性を未然に防止する最大の防止策の1つが「安定ヨウ素剤の服用」です(だから福島原発事故直後、福島県立医大の職員は一斉に服用しました)。これは予防原則の最たるものです。
だから、コロナ災害で「三密回避」の必要性を訴える人たちが、もし放射能災害で「安定ヨウ素剤の服用」の必要性を否定するとしたら、それは自分が何をしているのか理解できない人たちです。

いま、現在の医学の科学技術ではコロナウイルスに勝てないとき、私たちは三密回避という予防原則に従うしかないことと多くの人たちが身をもって理解しています。
この点で、現在の医学の科学技術では放射能に勝てない放射能災害(原発事故)と同じです。
私たちは、コロナ災害を通じ、身をもって知るに至った予防原則の必要性、大切さを放射能災害にも振り向ける必要があります。その1つが 「安定ヨウ素剤の服用」であり、それらの予防原則の具体化を集大成したチェルノブイリ法日本版です。

今年1月にチェルノブイリ法日本版の学習会を行なった清瀬市の市民の皆さんから、学習会の報告と「安定ヨウ素剤の事前配布を求める」市議会への請願の結果についての報告を頂いたので、転送します。また、その「安定ヨウ素剤の服用基準」の見直しの検討過程について、このたび、重要な発見がありましたので、合わせて報告します。

①.以下は今年1月に清瀬市で行なったチェルノブイリ法日本版の学習会の報告です。学習会に参加した皆さんが当日の話をどのように受け止めたのかが伝わる貴重な報告でした。

                      (クリックすると拡大)

②. 2つ目が、放射能災害に備えるAct locally(目の前のことをを具体的に取り組む)の活動の報告です。今年3月の議会に、安定ヨウ素剤の服用について、今回はつつましく、「3歳児未満の乳幼児へゼリー状の安定ヨウ素剤の事前配布を求める」という請願を出しました。その請願に対する議員ごとの対応も分かる報告書が作成されました。誰が市民の味方かが分かるとても貴重な情報です(送って頂いた通信全文は->こちら)。
                     (クリックすると拡大)

③.この「安定ヨウ素剤の服用」については、その服用基準の見直しについて、先ごろ、井戸謙一弁護士による重要な発見があります。詳細は追ってお知らせし、とりあえずその概要をお伝えします。

現在、放射能災害が発生したとき、小児甲状腺がん予防のため、小児に安定ヨウ素剤を服用する基準は「小児甲状腺等価線量の予測線量100ミリシーベルト」とされています。
しかし、この服用基準は高すぎるという批判が前々からありました。
その際たるものが、WHOが1999年に出した、18歳までの小児対しては10ミリグレイ(ここではミリシーベルトと同じ)」というガイドライン->日本語訳)でした。WHOは関係機関に、このガイドラインに従った基準の設定を要請しました。その結果、ラテンアメリカ、アジア・オセアニア、ヨーロッパの各甲状腺協会はこれを受け入れることを表明、各国も100ミリシーベルトの見直しに踏み切りました。
しかし、原子力発電推進国では唯一といいほど日本が、従前の100ミリシーベルトという高い基準を維持していました。
ただ、こうした国際的世論を受けて、日本でも服用基準の見直しの検討が迫られ、 2001年、原子力安全委員会の中の防災専門部会に「被ばく医療分科会」が設けられ、山下俊一氏を含む5人の委員が7回の会合での議論を踏まえて、防災専門部会は、2002年4月、「原子力災害時における安定ヨウ素剤予防服用の考え方について」と題する報告(専門部会報告と言います)を出しました。
しかし、その結論は従来通り、40歳未満の全ての人の服用基準は、「小児甲状腺等価線量の予測線量100ミリシーベルト」であるというものでした。
 問題は、その結論を引き出す根拠でした。

その概略を述べますと、
(1)、服用基準を定める式のアイデアは不利益と利益の釣り合い(「リスク・ベネフィットバランス」)を考慮するというもの。この点はWHOガイドラインと変わらない。
(2)、このアイデアに基づき使われた式が以下のもので、これ()が>0(正の値)の時の線量を求める。
B=Yo-(Y+R+X+Ai+As-Bc)

  B:あらゆる対策に関連する正味の便益
  Yo:対策を講じないことによる放射線の損害(DGy×(1Gy当たりの甲状腺生涯リスク)
  Y:対策を講じた場合に残存する放射線の損害
  R:防護対策を採ることにより生じる身体的リスク
  X:防護対策を実施するために必要な資源と努力
  Ai:防護対策により生じる個人の不安と混乱
  As:防護対策により生じる社会の混乱
  Bc:防護対策により得られる安心の便益


そして、専門部会報告は、Y、X、A、As、はいずれも0としているから、上記の式は、次のとおり簡略化される。
B=Y-R>0

結局、ベネフィット()がリスク()よりも大きくなる線量()を求めることになる。
(3)、の値 
 これについては専門部会報告とWHOガイドラインで大きな違いがありません。
 大きな違いは次ので生じました。
(4)、の値
  WHOガイドラインは、チェルノブイリ事故におけるポーランドの経験から、安定ヨウ素の投与からの深刻な副作用のリスクとして「10-7」を採用しました。これに対し、専門部会報告は根拠を示さずに、「6×10-4を採用したのです。
その結果、 WHOガイドラインでは、>0となるのは線量が0.01ミリグレイ(ミリシーベルト)。
他方、 専門部会報告では>0となるのは線量が50 ミリグレイ~90ミリグレイ以上
計算の結果、6000倍という、これほどの開きが出るとなりました。

専門部会報告は1999年に公表されたWHOガイドラインの中身は重々していました。だから、
WHOガイドラインがリスク()の値を何に基づいて決定したかもよおく知っていました。チェルノブイリ事故におけるポーランドの経験は、検討委員の一人山下俊一氏が311前に好んで口にした実例です(2009年「放射線の光と影」537頁()) 
にもかかわらず、専門部会報告は、ポーランドの経験に基づいたWHOガイドラインの決定に対する何一つ批判を加えることなく、これを黙殺、なおかつ自らの根拠も示すことなく、シラーと別の値を挿入しました。その結果が、従来通りの100ミリシーベルトでよいという結論でした。
こうなってくると、これはもはや科学ではなく、科学という名をまとった茶番、猿芝居ではないでしょうか。
この茶番劇がもたらした基準が2011年の福島原発事故でも、福島の子どもたちに安定ヨウ素剤を服用させない大義名分になったのです。そして、今後起きるかもしれない次の原発事故でも、同様の扱いが正当化されるのです。
改めて、WHOガイドラインに基づいた安定ヨウ素剤の服用基準に注目し、それを私たちの町に住む子どもたちの命、健康を被ばくから未然に守る予防原則に当てはめましょう。

)「ポーランドにも、同じように放射性降下物が降り注ぎましたが、環境モニタリングの成果を生かし、安定ヨウ素剤、すなわち、あらかじめ甲状腺を放射性ヨウ素からブロックするヨウ素をすばやく飲ませたために、その後、小児甲状腺がんの発症はゼロです。

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