本記事は、2023年3月5日、エルおおさかで開催された「さよなら原発2023関西アクション」(ストップ・ザ・もんじゅや労組など実行委員会主催)での講演を2/5の長さに要約したものです。(文責:柴原洋一)
子ども甲状腺がん裁判
2022年1月21日に子ども甲状腺がん裁判が提訴されたが、ほとんど報道されなかった。原告は、福島原発事故時に6歳から16歳で、現在は18歳から28歳の若者たち。自分たちの甲状腺がんは被曝が原因だと東電が認めること、そして賠償金を払うことを求めている。当初6人、現在7人の原告のうち甲状腺半分摘出が3人。全摘が4人。4人には手術4回の人もいるし肺転移の子もいる。比較的症状の重い子たちが原告にいる。
福島県で甲状腺がんが増えているが政府は否定している。小児甲状腺がんは100万人に1人か2人の病気だが、チェルノブイリ事故後に現地で急増。事故との因果関係は国際機関も認めている。
甲状腺検査で何が起きてきたか
それで2011年10月から、事故時18歳以下の福島県の子供たち38万人に対して甲状腺の検査を始め、2年ごとに全員を検査している。現在5巡目がまもなく終了して6巡目に入る。1巡目の検査でがんが見つかった人もいれば、3巡目や5巡目で見つかった人もいる。放射線が小児甲状腺がんの原因なのは国際的合意だが、国、福島県、東京電力は認めていない。5回の検査で、悪性と告知された人数が296人。238人が手術して、1人良性で、237人が甲状腺がんと確定した。公表分以外に50人ほど集計外の患者がいて大問題だが、合わせて300人以上の患者がいる。1巡目に116人のがんが見つかったが、福島県の「県民健康調査検討委員会」は2015年、これら甲状腺がんは「被曝の影響とは考えにくい」と結論づけた。日本は、被曝線量がチェルノブイリより少ない、幼い子たちからは見つかっていない、などが理由だ。
福島県検討委員会の闇
津田敏秀教授(岡山大、疫学)は、30倍〜50倍増えていて過剰診断ではなく被曝影響ではとの論文を国際医学雑誌に公表した。これも国内メディアはほぼ取り上げなかった。津田論文を重く見た国際環境疫学会が「被曝した全住民に体系的健診をすべき」と勧告。日本政府に協力する旨の書簡を送ったが、完全に放置されている。
1巡目でがんでなかった全員を2年後に検査したら71人ががんと判明。2年間で見つかるところまでがんが成長したということだ。さらに「明白な地域差」が出てきた。一番線量の高い避難指示地域が約50人、次に高い中通りが約25人、次の浜通りが約20人、最も低い会津が約15人。全地域が同じなら過剰診断かもしれない。だが地域差が明確なら、被曝影響を否定できない。
しかし、2016年、この発表を受けても、検討委員会は被曝影響を認めなかった。「確かに甲状腺がんは多いが、チェルノブイリに比べると、福島は被曝量がはるかに低いので、甲状腺がんは事故の影響とは考えにくい。精密な検査のしすぎで将来治療する必要のないがんを見つけている過剰診断の可能性が高い。地域差があるのがおかしい。過剰診断だから検査は縮小または中止すべき」という議論になった。「このような検査をするのは、子供の人権に関わる」との議論まで出た。そこから3年間、検査を縮小しろという議論が続く。住民も、親も、教師も反対したが、医師たちは賛成。委員会は解析を中止してしまった。
3年後、突然、新たな報告書が出る。要するに「このような地域分けにしたら地域差が明確に出た。でもこんなこと起こるはずないから、この分け方は中止。別の方法を取ったら、地域差が出なかった。地域差の出ないやり方が正しいので、この正しい方法では地域差が出ないから被曝影響はない」という報告書。循環論法で論証になっていない。だが2019年、日本政府はこの「科学的な」報告を受けて、被曝と甲状腺がんの因果関係はないと結論づけた。検討委員会の半数が突然の方法変更に抗議して座長預かりになったが、結論は一切変更なく、因果関係なしで採択されてしまった。ちなみに県立医大の執刀医は過剰診断説を否定している。「ほとんどの子がリンパ節転移。悪性度高く皮膜外浸潤も多い。取らなくていいがんは取ってない」
過酷な甲状腺がんの治療実態
〝300人が甲状腺がんと診断〟までは報道されるが、子供たちにはその先がある。半分摘出の原告4人が再発か転移した。再発は再手術、さらに全摘。1人は2回目の手術で、リンパ節転移があった首の後ろの方まで切る手術を受けた。首には重要な器官が詰まってとても脆弱だから、切ると致命傷。手術後はいっさい動かせない。体を大きく動かすと出血。数年前に名古屋大学で男の子が術後の出血で亡くなった。動かずに耐えるのは、子供たちにとって本当にきつい。
全摘の子はアイソトープ治療する。高濃度の放射性ヨウ素を服用、甲状腺細胞を全破壊する劇薬的治療だ。放射性ヨウ素を飲めば自らが放射線源になる。持っていった衣服、鼻をかんだテイッシュ、それらが全部放射性廃棄物で、鉛の容器に入れて厳重に蓋をしないと医療従事者が被曝する。食器も残した食べ物も放射性廃棄物になる。
県立医大は、2016年に日本最大のアイソトープ治療病棟を造った。原告のお母さんが立派な新しい病棟を見て言った。「日本政府は甲状腺がんが増えるの分かってたんですね」
声を上げられない患者たち
患者はいろいろなことで悩んでいるが、結婚が第一位。かれらは思春期でこの病気になるので、心を閉ざして、恋愛をすることとか、将来に夢をいだくこと自体が、そもそも閉ざされているという感じだ。多くの子が10代で進路を変更せざるを得ない。実際、就職先を辞め、学校を中退している。
ここに原告たちの手だけの写真がある。普通がんになると、周りから頑張ってねとか色々心配される。チェルノブイリでは、この子たちを助けようと全国的に世界中に支援の輪が広がった。いま日本はそういう状態ではない。〝過剰診断でがんが見つかった人で被曝の影響じゃない〟と強く言われている。だから本人たちは声を上げられない。病気ということも言えず、周囲も学校の先生も知らない。親戚さえ知らない。だから写真でも手しか見せられない。
ニュースでもほとんど取り上げないので、本当に知られていない。本人たちが小さく小さくなって誰にも言えない生活に耐えている。ぜひ一人でも多くの人に関心を向けていただきたい。本当はいま目に見えないところで苦しんでいる子たちがいるんだなあ、と想ってほしいと思います。
追記:裁判の法廷ごとに原告の意見陳述があり、Webサイトでも聴けるので、一人一人のストーリーを本人の声で聞いてくださると嬉しいです。そして、2人以上の方に今日の話を伝えてください。(白石)